「長々と説明をありがとうございました。最初から新電力の紹介ですと言えばすぐに断りましたった。申込書や文書一式は返してください。
一度、全ての資料を確認して、もしかしたら契約した方がいいと考えなおすかもしれません。その場合の連絡先も教えてください。」と伝えると、書いた契約書のみならず、営業で使用していると思われる全ての資料と共に名刺も置いていきました。

ここまでで1時間以上の応対をしています。時間を返してもらいたいという気持ちにくわえ、町内会の回覧板のお知らせで良く見る消費生活センターだよりやNHKの「私は騙されない」、ニュースで見る詐欺商法についてなど、さまざまなことが頭をよぎりました。
詐欺商法で、「消防署の方から来ましたという人から高額な消火器を買ってしまった」、「警察の人が来て、家族が事故に巻き込まれたからお金が必要だと言って渡してしまった」などの事例はよく耳にします。単純になんでそんなのに騙されたのかな?と思っていました。
しかし、今回の1件を経て感じたのは、ニュースで説明できるような身近な言葉で手口をまとめると、「消防署の方から来ましたという人から高額な消火器を買ってしまった」となるだけで、実際には、巧妙なやりとりや働きかけがあったのだろうということです。
私は教員でもあり、卒業後の学生らが怪しい会社に入社して、あんな営業していたらどうしよう、今日の男性2人の親はこんな仕事をしていることを知っているのかとも考えてしまいます。

いやいや、私は社会心理学の授業で、ビジネスで役立つ説得的コミュニケーションやコールド・リーディングの紹介などもしているのです。「お手紙を送りましたが届いていませんか?」と問いかけ、対面で話をする機会を作るのは、フット・イン・ザ・ドアという交渉法ですし、誰にでも当てはまるような曖昧な表現を、自分にだけ当てはまると思い込んでしまわせるバーナム効果など、おそらく彼らにはマニュアルがあり、話の流れで切り口を変えているはずです。
私に「新電力」や為替変動やエネルギーに関する「地政学的リスク」に左右される燃料費調整額について知識がないという前提で彼らの説明は進行していました。となると、世の中の仕組みや社会情勢に疎いとだまされる可能性も高いと予想されます。
みなしごには相談できる家族や親戚もいません。詐欺なのかそうでないのか、ひとりで判断できる知恵や判断力が必要だと実感した情けない1日でした。
その晩、この会社についてネット検索をする悪評がでるわ、でるわ・・・。怪しい契約を促されている場合、とりあえず、待たせて時間を稼ぎ、ネットで調べてみるというのも手なのかもしれません。
翌日、会社(販売代理店)に「個人情報が盗まれている可能性はないか」「誤って契約されていないか」と問い合わせをし、さらには新電力の会社にも、いわゆる電磁的方法、メールでクーリングオフの申請をしました。販売代理店からは男性の上司という方から「お詫びと契約無効の内容証明を送付する」との電話が入り、もちろん電話にでることなく全ての文言は留守番電話に録音しました。
当の担当者からもその日のうちに電話があり、さらに家のポストには「契約破棄証明書」という文書が入っていました。近所で営業をしている最中だったのかもしれません。

これらの対応も既に既定路線でやり方が決められているのでしょう。とにかく詫びて、客に嫌な印象を持たれないようにし、「好意の返報性」、すなわち最後まで誠実な対応をしたのだから、営業の話を客であるあなたが拒否したことにも付き合います、あなたに敵意はありません、話をきちんと聞かなかった客側にも問題ありましたよね、という先方のアピールとも考えられます。
しかし、内容証明は日付を明確にするために郵便が原則です。担当者のスマホに「契約はしていない、個人情報は一切漏らさない旨」の内容証明を担当者の実印入りで送付するようショートメールしました。
「いやー、嫌な客を勧誘しちゃったよねー。追い込むよねー。もう1人の男性は研修中のOJTでしょ。手口を学んでるのよ」
事の顛末を伝えた友人の弁です。
(文責:R)