商品(モノ)ではなく、仮想通貨や投資などの「儲け話」を「人に紹介すれば稼げる」と勧誘する「モノなしマルチ」と呼ばれる商法が広がっています。
国民生活センターによると関連相談は、13年度は全体の2割程度でしたが、17年度には5割を超え、22年度以降は全国で3000件以上になったそう。被害者の半数が20代以下ということです(『日経新聞』23年7月10日)。
大学生から8億円以上集めた事件も
24年7月には、マッチングアプリを使って大学生ら約2000人をビジネススクールに入会させ8億円以上を集めていたとして元コンサルティング会社社長ら4人が逮捕される事件もありました。この事件の被害者の平均年齢は21.7歳でした。
その入口は、友人やSNS等で知り合った相手からの勧誘です。飲食店等に誘われ、「会わせたい人がいる」「面白いセミナーがある」などと言われて行ってみると・・・。そこで、ビジネスなどの儲け話を持ちかけられ、「人を紹介すれば報酬が得られる」と誘われるのがパターンのようです。
被害額は50万円程度が多い
20代を狙ったマルチ商法の被害額は50万円程度が多いのが特徴です。なぜなら、50万円というのは、給与明細などの収入を証明する書類が無くても消費者金融で借りられる金額だからです。つまりお金が無く正社員でもない大学生が「どうにかできる」額なのです。
先にあげた事件でも、ビジネススクールの入会金は42万9000円でした(『テレ朝NWES』24年7月12日)。
「モノなしマルチ」にはまる理由
それにしてもなぜ、無理をしてお金をかき集めてまでマルチにはまるのでしょうか。ひとつには、今、“普通”の大学生活を送るには、お金がかかるからです。
パソコンやスマホは今や大学生の必須アイテム。そしてそれらを不便無く使うには、さまざまなアプリや課金、サブスクなどが必要です。
ひとつひとつは数百円程度の支払いでも、いくつものアプリやサブスクを使えば、月々の出費はけっこうな額になります。こうしたアイテムが無ければ、友達もできません。
コロナ禍を経て、孤独や分断も一段と深まっています。リアルな関係が希薄化する中で、マッチングアプリで出会いを求める若者は増えました。しかもマルチ商法は「人のつながり」という、孤独の解消法を教えてくれるようなそぶりを見せます。
そして何より、今の社会を無事生き抜くには「お金を稼ぐ」ことは何より大事です。投資市場が右肩上がりに成長するなか、儲け話に敏感でなければ、「悲惨な将来が待っている」という漠然とした不安を抱えています。
「モノなしマルチ」はこうした、若者の心の隙間を狙っているのです。